
【書籍】紫式部日記(ビギナーズ・クラシックス 日本の古典)

『紫式部日記』は、源氏物語の作者である紫式部が書いた宮仕え回顧録です。
源氏物語が紫式部により書かれた作品であることは、この『紫式部日記』から判明したそうです。
編訳者の山本淳子さんは、京都大学大学院人間・環境学研究科に進学後、「紫式部集」の研究で博士号を取得。平安文学研究者、京都先端科学大学人文学部教授です。
【訳文】
いつの間にか忍び込んだ秋の気配が次第に色濃くなるにつれ、ここ土御門殿のたたずまいは、何とも言えず趣を深めている。池の畔の樹々の梢や流れの岸辺の草むらはそれぞれに見渡す限り色づいて、この季節は空も鮮やかだ。そんな自然に引きたてられて、安産祈願の読経の声々がいっそう胸にしみいる。日が落ちれば涼しい夜風がそよぎだし、風音は絶えることのない庭のせせらぎの音と響きあって、夜通し和音を奏でる。
【原文】
秋のけはひ入り立つままに、土御門殿のありさま、いはむかたなくをかし。池のわたりの梢ども、遣水のほとりの草むら、おのがじし色づきわたりつつ、おほかたの空も艶なるにもてはやされて、不断の御読経の声々、あはれまさりけり。やうやう涼しき風のけはひに、例の絶えせぬ水のおとなひ、夜もすがら聞きまがはさる。
『紫式部日記 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典』紫式部 著、山本淳子 編
今回ご紹介するのは『紫式部日記 ビギナーズ・クラシックス 日本の古典』です。
紫式部といえば、学校の歴史や国語の授業で習う『源氏物語』の作者としてご存じの方も多いでしょう。
この日記は、彼女が宮廷での日々を綴った回顧録で、平安時代の雅やかな世界を垣間見られる一冊です。
この本は、原文と現代語訳、そして専門家による短い解説(寸評)で構成されており、古典初心者でも『紫式部日記』を深く楽しめます。
たとえば、引用文にある土御門殿の秋の情景は、色づく木々や涼しい夜風、せせらぎの音が織りなす「和音」が、まるで現代の私たちもその場にいるかのように心を揺さぶります。
こうした自然や人の営みが、紫式部の繊細な筆で生き生きと描かれているのです。
私がこの日記に惹かれるのは、知識を得る楽しさに加え、言葉から感じられる「雰囲気」や「響き」です。
初めて読んだとき、ページをめくるたびに、まるで平安の宮廷に迷い込んだような感覚に包まれました。
私が「言霊・波動」と呼ぶのは、紫式部の言葉が音楽のように心に響く力のことです。
たとえば、「夜通し和音を奏でる」という表現は、読むたびに静かな安らぎを与えてくれます。
『ビギナーズ・クラシックス』は、わかりやすい訳文と解説で、古典に慣れていない方でも気軽に楽しめる一冊です。
忙しい日常の合間に、紫式部の世界に触れる贅沢なひとときを味わってみませんか?
秋の夜風やせせらぎの音を感じながら、言葉の「響き」に浸ってみてください。
参考