
人は、なぜ他人を許せないのか?【新版】

『【新版】人は、なぜ他人を許せないのか?』は、中野信子さんの著書です。
中野信子さんは、脳科学者・医学博士・認知科学者として活躍する東京大学出身の研究者です。
フランス国立研究所での研究経験を経て、現在は東日本国際大学教授・京都芸術大学客員教授を務めています。
人間の感情や行動を脳科学の視点から解説し、著書やテレビ出演、講演活動を通じて幅広い層に影響を与えています。
代表作には『サイコパス』『不倫』『人は、なぜ他人を許せないのか?』などがあり、科学と社会をつなぐ知見を発信し続けています。
誰かに対して「許せない」という感情を一度も抱いたことがない、という人はおそらくいないのではないでしょうか。
本書の単行本が刊行された 2020年初頭は、ちょうど新型コロナウイルス感染症の感染拡大が騒がれ始めた時期でした。それから約 3年間続いたコロナ禍でも、さまざまな「許せない事態」が生じました。
マスクを着用していない人を激しく罵倒する「マスク警察」、自粛要請に応じない個人や店舗などに攻撃をする「自粛警察」、感染者に対して嫌がらせをする「感染者バッシング」などの言葉がニュースでも数多く報じられたのは、記憶に新しいところです。
これらの事象にも、本書のテーマである「正義中毒」が深くかかわっています。
詳しくは本文でお話しますが、人の脳は、裏切り者や社会のルールから外れた人といった、わかりやすい攻撃対象を見つけ、罰することに快感を覚えるようにできています。
他人に「正義の制裁」を加えると、脳の快楽中枢が刺激され、快楽物質である「ドーパミン」が放出されます。この快楽にハマり、正義に溺れてしまった中毒状態のことを、私は本書の中で正義中毒と名付けました。
SNSの普及により、正義中毒者は増加の一途をたどっているといえるでしょう。 SNSでは似た者同士でつながることが多く、自分が欲しい情報だけを取り入れ、受け取るようになっていくので、いつのまにか「自分の主張こそが正義なのだ」と考えるように仕向けられてしまうからです。
『人は、なぜ他人を許せないのか?』は、中野信子
現代社会において、他人の言動がどうしても「許せない」と感じる瞬間は誰にでもあるものです。
SNSや職場、家庭といったあらゆる場面で、怒りや批判が連鎖し、空気がギスギスする…本書は、そうした現象の背景にある「脳のメカニズム」に科学的な視点で切り込んでいます。
著者の中野信子さんは、脳科学の専門家として、「正義中毒」という概念を提唱。
私たちが他人を厳しく批判し、「裁く」「ジャッジする」ことに快感を覚えるのは、脳内の報酬系(ドーパミン)の働きによるものであり、正しさへの執着が中毒的に強化されてしまう可能性があると警鐘を鳴らします。
この指摘は、個人としての心の持ち方を見直すだけでなく、組織で人を率いる立場の人間にとっても非常に示唆に富みます。
特に、ビジネスや人材育成においては、メンバー間の対立や職場の不寛容な空気がパフォーマンスに直結するため、その原因が「感情」や「性格」ではなく、「脳の構造」に根ざしていると理解することは、マネジメントのあり方を根底から見直すきっかけになるでしょう。
本書はまた、こうした「許せない」感情を手放すためのヒントとして、前頭前野を鍛える方法やメタ認知の重要性も紹介しています。
怒りに振り回されずに、他者との健全な関係性を築いていくために、脳の働きを味方につけることができるというのは、大きな希望でもあります。
読みやすい語り口で、科学的知見と日常の行動が自然につながる構成になっており、専門知識がなくても理解しやすい一冊です。
感情をコントロールしたい方、自分や組織にもう少し寛容さを取り戻したいと感じている方には、強くおすすめできる内容です。
書籍情報
- タイトル:『【新版】人は、なぜ他人を許せないのか?』
- 著者:中野信子
- 出版社 : アスコム
- 発売日 : 2024/6/5
- 言語 : 日本語
- 文庫 : 260ページ
- ISBN-10 : 4 776213540
- ISBN-13 : 978-4776213543