
白い紙の上に、静寂を置く
使い慣れた万年筆の重みを、指先に感じる。
目の前には、まだ何の色もついていない、潔いほどの一枚の白い紙。
この白さは、私にとってひとつの「祈り」の場所でもあります。
日常の喧騒のなかで、ほどきようもなく絡み合ってしまった感情。
それを言葉という形にして、ゆっくりと紙の上へ移していく。
ペン先が紙の繊維を滑る、微かな摩擦の音。
インクが紙に吸い込まれ、潤いを帯びながら定着していく、その刹那の静けさ。
一文字、また一文字と、心の内側にあるものを紡ぎ出すたびに。
行き場のなかった「ざわつき」は、具体的な「形」を持って、私の外側の世界へとそっと差し出されていきます。
それは、自分を解き放つと同時に、いまの自分という存在を、ただ静かに、客観的に見つめるためのプロセス。
誰に見せるためでも、誰かを説得するためでもない。
ただ、自分の中に生まれたものを、そのままの温度でそっと置いていくための、秘やかな作業。
ふとペンを止めて、書き終えたあとの紙を眺めてみる。
そこには、先ほどまでの私が抱えていた重荷が、ただの「線」として、どこか他人事のように美しく横たわっています。
震えるような文字の揺らぎさえも、いまの私の「呼吸」そのものなのだと、不思議な愛おしさが込み上げてくるのです。
思考を整理するための記録ではなく、ただ、いまの自分をそこに留めておくための、名もなき余白。
万年筆を置き、椅子から立ち上がる。
手元に残された白い紙と、そこに綴られた黒い痕跡。
その静かな対比をひと目見つめるだけで、私の心には、新しく、深い呼吸が流れ込んでくるのを感じるのです。