
ざわめきのゆくえ
何かに追われているわけでもないのに、ふと、胸の奥が落ち着かなくなることがあります。
凪いでいた水面に、誰かがそっと小石を投げ入れたような、微かな、けれど確かなざわめき。
そんなとき、私は無理にその波を鎮めようとするのを、一度やめてみます。
焦って「正解」を探したり、気持ちを押さえつけたりするのではなく、ただ、そのざわつきの輪郭をそっと指先でなぞるように、静かに見つめてみる。
深く、呼吸をひとつ。
吸い込む空気が体の奥の緊張に触れ、吐き出す息とともに、その波がゆっくりと引いていくのを待つ。
胸の奥で渦巻く得体の知れない不安も、良いとか悪いとか、そんな名前をつける前の「質感」として、ただそこにあることを許してみるのです。
ふと視線を外に向ければ、風に揺れる木々の葉や、窓に滲む柔らかな光。
それらは何も言わず、ただそこに在ることで、私のざわつきを大きな静寂の一部へと溶かし込んでくれます。
道端に咲く名もなき花や、遠くで響く街の音。
見過ごしてしまいそうなほど小さな存在たちが、私の内側に、ひっそりとした余白を広げてくれる。
立ち止まることは、歩みを止めることではなく、自分の中に「空(くう)」を作ること。
そこに流れ込んでくる世界の奥行きを、ただ、肌で感じてみる。
そうして静かに観察を続けていると、いつの間にか感情の角が取れ、頭の中が柔らかく整っていくのがわかります。
ほんの数分、日常に溶け込むこの小さな沈黙。
その静寂のなかで、ようやく聴こえてくる声があります。
穏やかさを取り戻した心の瞳に、それまで見えていなかった「光の粒」が、ひとつ、またひとつと映り込み始めるのです。