
人が育つ組織は、どのようにつくられるのか|ファミリーマートの店舗経営から考える人材育成と組織運営
2026年9月、ファミリーマートが公開した新しいテレビCMに、世界的なアーティストであるLady Gaga(レディー・ガガ)が登場しました。「ファミマではたらく?」というメッセージとともに、ガガが店舗スタッフに扮し、レジ業務や商品陳列、清掃などを行う映像です。ファミリーマートは、このCMを通じて、コンビニエンスストアで働くことのイメージを刷新し、一人ひとりの個性を尊重する職場づくりを伝えようとしています。
このCMを知ったとき、私は以前、自分自身がファミリーマートの店長として働いていた頃のことを思い出しました。店舗経営や人材育成に携わっていたのは、もう随分前のことです。しかし、当時の経験を振り返ると、現在も考察できることが数多くあります。特に、人が仕事を覚えることと、組織が機能することの関係については、実践を通して学んだことがありました。
コンビニエンスストアという言葉を聞いて、どのような仕事を思い浮かべるでしょうか。レジでの接客、商品の陳列、清掃、調理。日常的に目にするのは、そうした店舗の表側にある仕事です。あまりにも身近な存在であるために、その仕事を特別な専門性を必要としないものとして捉える人もいるかもしれません。しかし、私たちが日々利用しているコンビニエンスストアは、商品開発、物流、情報システム、販売データの分析、業務の標準化、教育制度など、膨大な仕組みによって支えられています。そして、それらの仕組みを実際の店舗で機能させるためには、商品管理、発注、在庫管理、売場づくり、金銭管理、労務管理、採用、教育、販売促進といった多様な業務を、一つの組織として運営する必要があります。私たちが何気なく利用している店舗の背後には、消費者の立場からは見えにくい、もう一つの世界があるのです。
そして、ここには興味深い問題があります。同じファミリーマートという看板を掲げ、同じような商品を扱い、本部が整備したマニュアルやシステムを利用していても、店舗ごとに売場の状態や接客、人材育成、組織運営には違いが生まれます。仕組みが優れていることと、その仕組みを使って優れた組織が生まれることは、必ずしも同じではないからです。私が今回考えてみたいのは、コンビニエンスストア経営の難しさを伝えることではありません。高度に標準化された仕組みの中で、人はどのように育ち、組織はどのように機能するようになるのか。その違いを生み出すものは何なのかという問いです。
標準化された仕組みと、店舗ごとに異なる組織
ファミリーマートは、伊藤忠商事のグループに属する大規模なコンビニエンスストアチェーンです。商品開発や物流、情報システム、店舗運営の標準化など、個々の店舗だけでは構築することが難しい仕組みを、企業全体として整えています。フランチャイズ店舗に対しては、開店前の店長研修や、開店後のスーパーバイザーによる経営支援なども提供されています。
このような仕組みは、店舗運営において大きな意味を持ちます。業務の手順が標準化されていれば、経験の少ない人でも、一定の教育を受けることで仕事を習得しやすくなります。商品や物流の仕組みが整っていれば、店舗はそれらを一から構築する必要がありません。本部による支援があれば、販売計画や経営上の課題についても、店舗の外部から知識や情報を得ることができます。
しかし、仕組みが整っていることと、その仕組みが実際の現場で十分に機能することは、同じではありません。マニュアルが存在していても、スタッフが内容を理解しているとは限りません。教育制度があっても、教える時間が確保されていなければ、現場で十分に活用されない可能性があります。業務の担当者が決まっていても、本人が必要な知識を持たず、判断に迷うたびに管理者へ確認しなければならないのであれば、組織全体としての自律性は高まりません。
ここには、経営における二つの異なる問題があります。一つは、誰が担当しても一定の品質を保てるように、仕事の仕組みを整えること。もう一つは、その仕組みを実際に運用する人が、仕事の意味を理解し、自分の役割を果たせるようにすることです。前者は業務の標準化に関わり、後者は人材育成や組織運営に関わります。両者は密接に結びついていますが、同一ではありません。
そして、私自身が店舗経営を通して取り組んでいたのも、まさにこの二つを結びつけることだったのだと思います。
店長の仕事は、店長を育てることなのか
店長になってから1年が経つか経たないかという頃、私は、優れたコンビニエンスストアのオーナーが書いていたブログを読んでいました。そこで出会った考え方の一つが、「コンビニ店長の仕事は、店長育成業である」という趣旨のものでした。正確な言葉は覚えていませんが、その考え方は、今でも記憶に残っています。
当時、そのブログからは、コンビニエンスストア経営について多くのことを学ばせてもらいました。また、経営やマネジメント、人材育成に関する書籍も数多く読み、学んだことを実際の店舗で試していました。したがって、後に店長が現場へ常駐しなくても店舗が機能するようになったのは、偶然そうなったというよりも、学びながら意図的に組織をつくっていった結果だったと考えています。
では、「店長を育てる」とは、何を意味するのでしょうか。文字どおりに考えれば、次の店長候補を育成することになります。しかし、この考え方には、もう少し広い意味を見いだすことができます。店長が担っている業務や判断を分解し、それぞれを担当できる人材を育てること。そして、店長一人に依存しなくても、日常の店舗運営が成立する状態をつくることです。
組織において、管理者が優秀であることは、必ずしも組織全体が優秀であることを意味しません。管理者自身の能力が高く、あらゆる問題を解決できたとしても、すべての判断がその人に集中していれば、管理者が不在になった途端に仕事が滞る可能性があります。逆に、管理者が自分の知識や経験を他者へ伝え、仕事を担える人を増やしていけば、組織は特定の個人への依存を小さくできます。
ただし、ここで重要なのは、管理者の仕事を単純に減らすことではありません。日常業務を他者へ移した結果、責任だけがスタッフに押しつけられたり、特定の人に負担が集中したりするのであれば、組織運営として十分とは言えないからです。仕事を任せることには、教育、役割の明確化、判断範囲の設定、確認体制などが伴います。権限の委譲は、管理責任の放棄とは異なります。
教育は、現場の余裕から始まる
私が店長として行っていた新人教育は、本部のマニュアルを基本とし、ファミリーマート湘南研修センターで学んだことや、実際の店舗運営で得た経験を踏まえたものでした。湘南研修センターとは、ファミリーマートが設立した研修施設で、加盟店の店長やマネージャーなどを対象に、店舗運営に必要なマネジメントや基本業務の教育を行っていた施設のことです。新しく入ったスタッフには、レジ操作や基本業務について、私自身が一人ひとり丁寧に研修を行っていました。単に手順を説明するのではなく、実務を通して得た理解も交えながら、かなり詳しく伝えていたと記憶しています。
一方、売場での具体的な仕事や、ファミチキなどの調理業務については、既存のスタッフが積極的に教えてくれていました。当時は優秀なスタッフに恵まれていたと思います。ただし、スタッフが優秀だったというだけで、教育が成立していたわけではありません。新しいスタッフに現場業務を教える際には、通常のシフトよりも一人多く配置し、教育に必要な時間を確保していました。
この人員配置は、人材育成を考えるうえで重要な意味を持ちます。教育には、教える側と教わる側の双方に時間が必要です。仕事の手順を説明し、実際に行ってもらい、理解を確認し、必要に応じて修正する。その過程を省略すれば、一時的には人件費を抑えられるかもしれません。しかし、十分に理解しないまま仕事を任せれば、後になってミスへの対応や再教育に時間を要する可能性があります。
ここで考えたいのは、教育を費用としてだけ見るのか、それとも将来の組織運営を支える投資として見るのかという違いです。もちろん、教育に人員を増やせば必ず長期的な利益が生まれるわけではありません。離職率、業務の難易度、教育の質、店舗の収益状況などによって、その効果は異なります。それでも、人材育成を重視すると言いながら、教育するための時間や人員を確保しないのであれば、現場に求めていることと、実際の運営条件との間に矛盾が生まれます。
組織心理学では、仕事上の要求と、それに対応するために利用できる資源との関係が研究されています。Bakker(バッカー)とDemerouti(デメルーティ)らによる仕事の要求度・資源モデルでは、仕事の負担だけでなく、支援や裁量、成長の機会といった資源が、働く人の状態や仕事への関与に関係すると考えられています。教育のために人員を確保することは、この理論をそのまま実証する事例ではありませんが、現場に必要な資源を与えるという観点から理解することができます。
また、基礎教育を店長が担い、現場の実務教育を経験豊富なスタッフが担うという役割分担にも意味があります。教育を一人の管理者に集中させず、職場の中で知識や技術が伝えられる状態をつくることは、組織としての学習能力に関わります。スタッフが新しいスタッフを教える過程では、教える側も自分の仕事を言葉にし、理解を確かめる機会を得ます。教育は、教わる人だけのために存在するわけではないのです。
仕事を任せることと、責任を押しつけること
当時の店舗では、商品の発注業務はすべてアルバイトスタッフが担当していました。毎日のレジ精算は夜勤のスタッフが行い、売上金の銀行への送金、釣り銭準備金の両替などは、アルバイトマネージャーが平日に担当していました。私自身が日常的にすべての業務を行う必要はなく、スタッフそれぞれが担当する仕事を持っていました。
ただし、発注や金銭管理のように責任の大きな仕事を、誰にでも任せていたわけではありません。勤続年数や普段の仕事ぶりを見ながら、この人なら任せられると判断したスタッフに担当してもらっていました。そして、そのような仕事については、私自身が直接、詳しく教えていました。
教育の際には、責任を重く考えすぎず、かといって軽く考えすぎないような考え方を伝えていた記憶があります。責任のある仕事を任せる際、必要以上に緊張させれば、本人が判断すること自体を恐れるようになるかもしれません。一方で、仕事の重要性を十分に理解していなければ、確認や報告が疎かになる可能性もあります。責任の意味を理解しながら、落ち着いて仕事を遂行できることが大切だったのだと思います。
ここで、権限委譲と単なる業務移管を区別しておく必要があります。業務移管とは、ある仕事を別の人に担当してもらうことです。しかし、権限委譲には、その仕事を遂行するために必要な判断の範囲を明らかにし、本人が自分の役割を担えるようにすることが含まれます。例えば、発注業務を任せる場合でも、単に端末を操作できれば十分とは限りません。商品の売れ行き、在庫の状態、販売機会、廃棄の可能性などを踏まえ、何を確認し、どのように判断するかという理解が必要になります。
もっとも、担当者が判断できる範囲には限界があります。金銭管理や労務管理などでは、内部統制や法令上の責任も考慮しなければなりません。スタッフを信頼することと、管理者が確認責任を果たすことは両立する必要があります。人を育てることによって管理者が不要になるのではなく、管理者が直接作業する範囲と、組織全体に対して責任を持つ範囲が変化していくのです。
自由な余白は、組織に何をもたらすのか
当時、私はスタッフに、必要な仕事を終えたのであれば、あとはゆっくりしていて構わないと伝えていました。むしろ、他のスタッフとのコミュニケーションをとることには、実は業務上の意義もあるからお話をすると良いよと伝えていました。仕事が残っているのにサボって良いという意味ではありません。やるべきことをきちんと行っているのであれば、常に何かをしているように見せる必要はないという考え方でした。
そのような職場で、印象に残っている光景があります。レジの後ろには絵を描くための道具が置いてあり、スタッフの中には、仕事の合間に自分から販促物を制作する人がいました。私が一つひとつ指示しなくても、手描きの販促物が売場に増えていくことがありました。
この出来事を、単に自由な職場だったという言葉で片づけたくはありません。むしろ考えたいのは、仕事の手順や責任が明確であることと、働く人に自由な余地があることは、必ずしも対立しないという点です。必要な業務が理解され、一定の役割分担が成立していれば、管理者がすべての行動を細かく指示する必要は小さくなります。そして、指示されていない時間や行動の中から、スタッフ自身の発想が生まれる場合があります。
人間の動機づけを説明する理論の一つに、Deci(デシ)とRyan(ライアン)らによる自己決定理論があります。この理論では、自律性、有能感、関係性という三つの基本的な心理的欲求が重視されます。自分の行動を自ら選んでいると感じられること、自分には物事を遂行する力があると感じられること、他者とのつながりを感じられることが、人間の動機づけや心理的な状態に関係すると考えられています。
この観点から当時の店舗を振り返ると、興味深いことがあります。スタッフは必要な業務を覚え、一定の仕事を任されていました。そのうえで、仕事を終えたあとの過ごし方についても、ある程度の自由がありました。さらに、自分で考えた販促物が実際の売場に反映される経験もありました。これらは、自律性や有能感を考えるうえで参考になる出来事です。
ただし、自由な時間があったから自発的な販促活動が生まれたと、因果関係を断定することはできません。もともと絵を描くことが好きだったスタッフがいたことや、スタッフ同士の関係、店舗の雰囲気なども関係していたでしょう。また、すべてのスタッフが自発的に販促活動を行っていたわけではありません。
それでも、管理者が指示していないことを、スタッフが自分の意思で行い、それが店舗の活動に生かされていたという事実には意味があります。人材育成を、指示したことを正確に実行できる人を増やすことだけだと捉えるなら、このような活動は教育の成果として見えにくいかもしれません。しかし、人が自分の能力や関心を仕事の中で生かせることまで含めて考えるなら、組織が人に与える余地そのものが重要になります。
人を尊重することは、管理を弱めることなのか
人材育成を考える際には、業務の仕組みだけでなく、管理者とスタッフの関係も無視できません。当時、スタッフが仕事でミスをした際には、自分から謝りに来る人が多かったと記憶しています。そのようなとき、私は相手の状況や気持ちを理解しようとすることを大切にしていたように思います。そして、「次からどうすればよさそう?」と問いかけ、本人に考えてもらうこともありました。
もちろん、ミスへの対応は、その内容や影響によって異なります。重大な問題が起きた場合には、原因の確認、必要な報告、再発防止のための手順の見直しなどが求められます。本人が考えることだけに任せてよいわけではありません。しかし、すでに自分のミスを認識し、申し訳なく思っている相手に対して、さらに強く責めることが、必ずしも改善につながるとは限りません。
組織研究では、Amy Edmondson(エイミー・エドモンドソン)が、心理的安全性とチームの学習行動との関係を研究しています。1999年に発表された研究では、製造業の51チームを対象とした調査から、対人関係上のリスクを取っても安全だという共有された認識が、チームの学習行動と関連していることが示されました。ここでいう心理的安全性は、ミスをしても責任を問われないという意味ではありません。問題を報告し、質問し、意見を述べることができる関係性に関わる概念です。
当時の店舗が心理的安全性の高い職場だったと、現在の記憶だけから評価することはできません。ただ、スタッフが自分からミスを報告していたことや、本人に改善方法を考えてもらう対応をしていたことは、ミスへの向き合い方を考えるうえで、一つの材料になります。問題が起きたとき、誰が悪いのかを追及することと、何を改善すればよいのかを考えることは、必ずしも同じではありません。
また、私は給与明細の袋の中に小さなメッセージカードも入れていました。手書きで「〇〇さんの〇〇なところに助けられています。ありがとうございます」など、スタッフへ日頃の感謝を伝えるようにしていました。管理者という立場にあっても、できるだけ上から目線になってしまわないようにしていた記憶があります。これは特別な人材育成技法というより、私自身が人と関わる際に大切にしていた姿勢だったのでしょう。
管理者とスタッフには、組織上の役割の違いがあります。仕事を任せる権限も、最終的に負う責任も同じではありません。しかし、役割の違いを、人間としての価値の上下と混同する必要はありません。相手を尊重することと、仕事に必要な基準を守ることは両立します。むしろ、相手を一人の人間として尊重するからこそ、必要なことを丁寧に伝え、責任の意味を共有することができるのではないでしょうか。
店長が常駐しなくても機能する店舗
こうした取り組みを重ね、店長になって4年目頃には、私自身が現場に常駐しなくても、日常の店舗業務が機能する状態になっていました。商品の発注、レジ精算、売上金の送金、釣り銭準備金の両替などは、それぞれの担当スタッフが行っていました。私が主に担当していたのは、勤務実績の確認や修正、給与確定、シフト表の作成、スタッフの面接・採用、初期教育などでした。
本部のスーパーバイザーが毎週訪問する際には、私が対応することもあれば、マネージャーに任せることもありました。スーパーバイザーとは、損益計算書や貸借対照表、今後のマーケティング施策などについて確認していました。日々の店舗運営と、経営上の管理や判断が、ある程度分かれていたわけです。
この状態を、単に店長が現場にいなくてもよくなったという成果として捉えることは適切ではないと思います。管理者が現場にいることには、現場の状態を直接把握し、スタッフとの関係を築くという意味もあります。反対に、管理者が現場から離れていても、特定のスタッフに負担が集中していたり、問題が見えなくなっていたりすれば、組織が健全に機能しているとは言えません。
重要なのは、管理者が不在でも仕事が進むことそのものではなく、その状態がどのような仕組みと関係性によって支えられているのかという点です。仕事の手順が共有され、担当者が必要な知識を持ち、自分の役割を理解し、判断が必要な場面では適切に対応できる。さらに、管理者は組織全体の状態を把握し、必要な管理責任を果たしている。そのような条件が整って初めて、日常業務を特定の個人に依存させない組織運営が成立します。
ここには、管理者の役割が変化するという問題があります。自分が仕事をすることから、人が仕事をできる状態をつくることへ。個々の作業を直接処理することから、業務全体が機能する条件を整えることへ。管理者の能力を、本人がどれだけ多くの仕事をこなせるかだけで評価するなら、この変化は十分に捉えられません。
売上の成長と、組織の成長をどう区別するか
当時の店舗では、売上面でもいくつかの成果がありました。店長になって約1年の頃には、おむすび100円セールにおける対前週売上伸長率で、ファミリーマート全国1位になったことがあります。その取り組みについて、本部主催のCS取組発表会(CSはCustomer Satisfaction〈カスタマー・サティスファクション〉の略で、顧客満足を意味する)で話す機会もいただきました。また、店長就任3年目には、就任時と比較して、年商ベースで約3,000万円の売上増加を実現していました。
ただし、これらの実績を、そのまま人材育成の成果として扱うことはできません。販売実績には、立地や商圏、商品施策、競合環境、販売機会など、多様な要因が関係します。スタッフの教育や店舗運営の改善が寄与した可能性はありますが、当時の記録や比較資料なしに、その影響を切り分けることは困難です。
また、売上の成長と組織の成長は、そもそも異なるものです。売上が伸びていても、管理者や一部のスタッフに過度な負担が集中している組織はあります。反対に、教育や役割分担が進んでいても、外部環境の変化によって売上が伸びない場合もあります。したがって、組織の状態を評価する際には、売上や利益だけでなく、仕事がどのように分担され、スタッフが何を理解し、どのような責任を担えるようになったのかという視点も必要になります。
私自身、販売実績を上げた経験と、店長が常駐しなくても店舗が機能するようになった経験は、異なる時期の出来事として記憶しています。前者は主に販売上の成果であり、後者は組織運営のあり方に関わる変化です。両者を安易に一つの成功物語へまとめるのではなく、それぞれが何を意味しているのかを分けて考えたいと思います。
人材育成は、誰のために行われるのか
ここまでの経験を振り返ると、人材育成には少なくとも二つの目的が存在していることに気づきます。一つは、組織が必要とする仕事を、より多くの人が担えるようにすることです。もう一つは、働く人自身が知識や技術を身につけ、自分の能力を生かせるようになることです。
この二つは、重なり合うことがあります。スタッフが新しい仕事を覚えれば、組織の運営能力が高まると同時に、本人ができることも増えます。仕事を任されることで、自信や達成感を得る場合もあるでしょう。しかし、組織にとって望ましい成長が、必ずしも本人にとって望ましい成長であるとは限りません。
より多くの責任を担いたい人もいれば、決められた仕事を安定して続けたい人もいます。仕事を通じた成長に価値を感じる人もいれば、仕事以外の生活に重きを置く人もいます。管理者が、本人の意思を十分に考慮せず、組織にとって望ましい姿へ一方的に導こうとすれば、人材育成は本人の可能性を広げる営みではなく、組織の都合に合わせて人を変える営みになってしまう可能性があります。
一方で、組織には目的があります。店舗であれば、商品やサービスを提供し、顧客に応え、事業を継続する必要があります。仕事を任せる以上、一定の品質や責任を求めることも避けられません。人を尊重するという理由だけで、組織の目的や業務上の基準をなくすことはできないのです。
だからこそ、人材育成には、経営上の合理性と、人間に対する理解の両方が必要なのだと思います。組織が何を必要としているのかを明らかにすると同時に、そこで働く人が何を望み、何を得意とし、どのような役割を担おうとしているのかを理解すること。その両者が常に一致するとは限らないからこそ、管理者には判断が求められます。
私は現在、人間理解という、より広い対象を探究しています。人がどのように考え、感じ、行動するのか。そして、その認識や行動が、社会や組織の仕組みとどのように関係しているのか。そうした問いを辿る中で、かつての店舗経営の経験も、あらためて考察の対象になっています。
当時の私は、現在のような言葉で人材育成を理解していたわけではありません。経営について学び、現場で試し、スタッフと関わりながら、少しずつ組織のあり方を変えていきました。そして、その過程では、優秀なスタッフに恵まれたことも大きかったと思います。組織の成果を、管理者一人の能力や判断だけに帰することはできません。
人が育つ組織とは、管理者が優れた教育方法を知っている組織なのでしょうか。それとも、働く人が自分の役割を理解し、能力を生かしながら、必要な責任を担える環境がある組織なのでしょうか。
おそらく、どちらか一方ではないのでしょう。教育することと、仕事を任せること。仕組みを整えることと、自由な余地を残すこと。組織の目的を果たすことと、そこで働く人を尊重すること。それらは互いに関係しながらも、ときには緊張を生みます。
人材育成とは、その緊張をなくすための技術ではなく、異なる目的や立場が存在する組織の中で、人がどのように働き、成長し、役割を担っていくのかを考え続ける営みでもあるのだと思います。
参考資料
株式会社ファミリーマート「レディー・ガガがファミマでアルバイト!?コンビニで働くことのイメージを変える新CM『ファミマではたらく?』篇」2026年9月25日。https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002532.000046210.html
株式会社ファミリーマート「ファミリーマート湘南研修センター開設のお知らせ」1997年8月27日。https://www.family.co.jp/company/news_releases/1997/19970827_02.html
株式会社ファミリーマート『2008 Sustainability Report(サステナビリティ報告書)』2008年、24頁「湘南研修センター」。https://www.family.co.jp/content/dam/family/sustainability/report/annual_csr_report_consolidated/arc_08/pdf/report_08.pdf
株式会社ファミリーマート『2007 Sustainability Report(サステナビリティ報告書)』2007年、「人材育成の支援」。https://www.family.co.jp/content/dam/family/sustainability/report/annual_csr_report_consolidated/arc_07/pdf/report_07.pdf
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