
『Perspective』
ピアノの打鍵が、静かな水面に広がる波紋のように部屋を満たしていく。
坂本龍一さんの『Perspective』を聴いていると、身体の重みが少しずつ薄れ、意識だけが高い場所へ引き上げられていくような感覚になります。
そこから見える私は、日々の小さな出来事に一喜一憂し、正解のない問いに迷い、秒針を追いかけている、ほんの小さな存在でした。
けれど、その小ささは、不思議と悲しいものではありません。
この曲は、自分という存在を小さく見せるためではなく、自分が立っている場所を、少しだけ遠くから眺めさせてくれるように思えるのです。
私たちは、自分の視点の中で世界を見ています。
目の前の問題は大きく見え、明日の不安は現実以上の重さを持ちます。
けれど、その視点が少しだけ動くだけで、世界の輪郭まで変わることがあります。
この曲を聴いていると、それまで抱えていたものが消えるわけではありません。
ただ、それらが自分のすべてではなかったことを、静かに思い出します。
自分が死んだあとも、世界は続いていく。
光は降り注ぎ、風は吹き、季節は巡り続ける。
その当たり前のことが、この曲の中ではどこか穏やかで、美しい事実として響いてきます。
だからなのか、曲が流れているあいだは、自分という物語だけを見つめ続けなくてもいいような気がします。
もっと大きな時間の流れの中に、自分もまた静かに含まれている。
そんな感覚が、音の隙間からゆっくりと立ち上がってきます。
曲の終わりに耳を澄ませます。
音が消えたあとも、その視点だけは、しばらく部屋に残っていました。
-- 坂本龍一『Perspective』を聴いて
坂本龍一『Perspective』
https://www.youtube.com/watch?v=fe9LS22ZEUM
Yellow Magic Orchestra(YMO)『Perspective』
https://www.youtube.com/watch?v=JnJfY8qbqPg