
『にんげんっていいな』 異界から眺める、体温という名の奇跡
夕焼け小焼けの向こう側。山の端に日が落ちて、世界が昼と夜の境目に溶けていくとき。物語を語り終えた生き物たちは、人間の住む里の灯りを、少し離れた場所から見つめています。
あたたかいごはん。ほかほかのお風呂。そして、帰る場所で待っている、自分を呼ぶ名前の声。
それは、深い森の静寂に比べれば、あまりにも小さく儚い灯火に過ぎません。けれど、その小さな「生活」の営みの中にこそ、剥き出しの体温という名の奇跡が宿っています。
「にんげんって、いいな」
その言葉を呟くのは、人間自身ではありません。人間ではない「外側の存在」が、私たちのままならない日々の中に、言いようのない美しさを見出している。お尻を出して、笑い合って、眠る。そんな、動物たちと地続きの野性味あふれる営みを、そのまま肯定する眼差し。
そこには、正しさや業績で自分を裁く冷徹な物差しはありません。ただ、肉体を持って、誰かと触れ合い、この地上を這い回って生きているという事実への、深い受容だけがあります。
私たちは、自分という存在を、もっと高尚で清らかなものに仕立て上げようと背伸びをしてしまいます。けれど、本当の救いは、そんな「型」の外側にあります。泥にまみれ、笑い、泣き、そしていつかは土に還っていく。その、あまりにも具体的で限定的な人生のひとときが、実は宇宙の側から見れば、羨むほどに眩しい時間であるということ。
「それでも、あなたはここにいていいのだ」
子供たちの歌声が響くあの旋律は、私たちがどれほど自分を損なわれた存在だと思い込んでも、異界の友たちが送ってくれる、優しいメッセージなのかもしれません。