
『おおかみこどもの雨と雪』 異なる道を選ぶ、不揃いな自律
雪が降る日と、雨が降る日。
同じ家で育った姉と弟は、やがて、それぞれ違う道を選びます。
映画『おおかみこどもの雨と雪』を思い返すたび、私の心に残るのは、その選択そのものよりも、それを見守る母・花の姿です。
雪は、人間として生きることを選びました。
雨は、狼として森で生きることを選びました。
同じように育ち、同じ愛情を受けながら、それでも二人の向かう場所は違っていました。
どちらが正しかったのでしょうか。
そんな問いは、この物語にはありません。
それぞれが、自分にとって自然な場所へ歩いていっただけでした。
私たちは、大切な人ほど、自分の近くにいてほしいと思ってしまいます。
同じ景色を見て、同じ場所で生きてほしいと願ってしまうことがあります。
けれど、この物語を観ていると、本当に相手を大切に思うことは、その人の選んだ道を受け入れることなのかもしれないと思えてきます。
「しっかり生きて」
森へ向かう雨の背中へ向けて、花はそう声をかけます。
引き止めることもできたはずです。
追いかけることもできたはずです。
それでも花は、その背中を見送りました。
送り出すということは、諦めることではない。
相手の人生を、その人に返すことなのかもしれません。
雨が森へ消えていく姿を見つめる花の表情を、私は今もときどき思い出します。
あのとき見送ったのは、息子だったのでしょうか。
それとも、「母」という役割の一部だったのでしょうか。
その答えはわかりません。
ただ、あの背中を見送る静かな時間だけが、この物語の最後まで心に残り続けています。
-- 細田守監督『おおかみこどもの雨と雪』を観て